case:ジャックと届人

シナリオ:dropout despair

2人の出会い捏造殴り書き。

 

 

「遺書、だぁ?」

廃墟に荒れた声が響く。
酷く喘鳴しながら、髭面の男性は目の前に立つ男を嗤った。

「ハッ、殺そうとしている相手に遺書を書けたぁ、噂通り頭が可笑しいみたいだな」

身体の半分以上を己の血で染めながら髭面の男性は目を眇める。
そして、重そうに腕をあげると、僅かに離れたところにあったくたびれた鞄を指さした。

「遺書ならもう書いてある」

そう言うと、べちゃりと腕を下ろした。
常ならば、精悍であっただろうなりは身を潜め、代わりに血と死の気配を纏っている。

「まさか、こんなとこであいつに渡るはめになるとはなぁ。
 ・・・M県S市Y町、22-5-4の奴に渡せ。顔にそばかすがある天パのガキだ。」
 
言葉には荒い呼気が混じっており、聞き取りづらい程だった。
しかし、男の耳にはきちんと届いたようだった。
男はひとつ頷くと、銃の照準を髭面の男性へと合わせた。

閑静な住宅街の、何も変哲もない一軒家。
そこにチャイムの音が鳴り響いた。

「はーい。どちらさまー?」

チャイムに呼ばれて聞こえる声は、どこか間延びしていて年若い。

「あなたに手紙が届いています。ブラーボと呼ばれる男から」

インターホン越しに応答する声は穏やかだった。

「ブラーボ? いま出まーす」

パタパタと軽い足音の後に顔を出したのは、顔にそばかすのある天然パーマの女だった。
男は彼女を一瞥すると、懐から白い封筒を取り出した。

「ブラーボからあなたへ。遺書です」

「遺書? なんで? ・・・あの人死んだの? 殺しても死ななさそうなのに」

彼女は、男から渡された白い封筒を受け取り、不思議そうにそうぼやく。

「人は死ぬものですよ。だからこその遺書です」

男は語る。遺書を届ける意味を。
淡々と。しかし、熱のこもった声で。

「よく、わからないけど。ブラーボの記憶の延命? のためなんだ? そっかー」

とぼけたような、どこかぼんやりとした表情で彼女はそういった。
何を考えているのか、・・・何を想っているのか、その表情からは読み取れない。
ふと、いつの間にか、彼女の手には何かが握られていた。お守りだった。

「そうだ」

ぽつりと彼女が呟く。
そして、まじまじと男の顔を覗き込む。
その表情はまるで、今初めて目の前の男性を認識したかのように、はっきりとしていた。
先ほどのぼんやりとした印象が霧散する。

「いい事思い付いた」

そして、どこか嬉し気な、子供が失くしていたと思っていた玩具をようやっと見つけたような、そんな楽しそうな様子でこう言うのだった。

「ねー。助手とかいらない? ナースとか!」